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「お骨、少しもらってきた。どこのかわかんないけど、ないよりいいでしょ」  急に、心臓を引き絞られたような気がした。  友宏の手の上で、睦月がそっと缶の蓋を開けた。小さい楕円の缶の中に柔らかそうな布が詰められていて、その上に、慎ましい白いかけらが納まっている。端の方が鋭く欠けていて、なにかの衝撃で砕けたように見える。  冬の焼き場で、箸を突き立てて砕いた光司の骨に違いなかった。  ずっと無意識に堪えていたものが胸を突き上げて、喉から変な声が出た。  睦月がそっと缶の蓋を閉めた。友宏の両手の上から小さく白い手を乗せて柔らかく握りこむようにして、二人で光司の骨のかけらを包み持った。もうなにも我慢できなかった。ずっと閉じ込めていたはずの涙がとめどなく頬を流れて、光司の骨を持つ手の上に落ちた。なにも言えなかった。言葉なんて出なかった。忘れたくなんかない。光司を思い出にしたくない。速風光司はもういない。もう、この世界のどこにもいない。     
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