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 睦月が呟いた。初めて聞く冷たい声に顔を上げると、睦月の表情のない目が友宏の泣き顔を見上げた。その手が伸ばされて乱暴に腕を掴まれる。手のひらの上に乗せた骨の缶が床に落ちた。それを一切気にせずに睦月は友宏の腕を思いもよらない強さで引き、まだ靴も脱ぎきらない友宏を寝室まで引きずるようにして廊下を歩き、乱暴にベッドに投げ倒した。普段の睦月からは信じられないような力だった。ベッドに投げ出されて起き上がる間も無く馬乗りに股がられて、見上げた顔に息を呑む。  西陽を受けて金色に光る目が、見たこともないほど荒んでいた。 「むつ……う」  唇を押し付けられた。生温い舌に唇をこじ開けられて、強引に進入される。乱暴さに息が詰まった。しかし、伸し掛かる体は軽かった。押し付けられた胸の間に腕を入れて、今までにない乱暴さで抱きすくめてくる体を押して、目の前の小さい体を力任せに無理矢理引きはがした。息が切れていた。睦月は初めて見る顔をしていた。いつも無表情でぼんやりしている綺麗な顔が、人を殺したあとみたいに荒んで真っ青にひび割れていた。 「おれは恋人の弟なんでしょ。恋人の弟は、普通こんなことしないよね」  目の前で薄い口の端が歪んだ。息を切らしたまま見つめて、それが笑みだったと気づいたときには睦月はもう表情を無くしていた。限界まで俯いた顔が崩れるように友宏の喉元に押し付けられる。喉元に泣く寸前のような震える呼吸を感じた。喪服のシャツを握り締められて、薄くて細い体が割れ砕けそうに友宏の上で震えて、痙攣のような呼吸とともに睦月が言葉を失う。  なぜだか、胸の上にいるのが道端に捨てられた犬猫か何かのように思えた。 「お前……泣いてんの。怒ってんの」     
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