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 睦月が胸の上で震えながら息を吸った。 「わかんない……。でも、おれが泣いたり怒ったりする理由なんて、ないよ」  喉元に押し付けられた額は、湿って熱かった。 「わかんないんだよ。もう、こんなんならおれがいたって意味ないじゃん。ここにも、実家にも、おれ、いなくていい」  涙を含んだ震える声が胸に落ちた。 「睦月」 「どうしたらいいの。どうしたらみんな辛くならないの。父さんも、お母さんも、友宏も、どうしたら辛くならないの」  初めて聞くような、痛々しい声だった。いつもぼんやりと響くはずの声が、いまは割れ砕けたガラスの破片のように平坦さを失って友宏の上に散らばる。 「いまは、お前の方が辛そうだけど」  注意深く言った。胸の上で睦月が震えながら深呼吸した。泣くのを堪えているのだろう。喉元に熱い息がかかって、涙と区別がつかない。 「そんなの、どうでもいいよ。おれよりみんなの方が辛い」  強張って震える薄い肩に、手を置いた。 「睦月、顔見せて」  睦月が素直に顔を上げた。真っ赤になった目元と頬が、泣きじゃくる子供のように見えた。半開きの唇が震えて、鼻の頭も赤くて、涙こそ溢れてはいないが、どこからどう見ても泣き顔だ。 「お前だって辛いんだろ」     
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