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 言いながら、しがみつかれた胸に申し訳なさが湧いた。  睦月は優しい。五ヶ月一緒に暮らして、それは身に沁みてわかっていた。友宏が何をしていても睦月は黙って家にいて、さりげなく友宏が居心地いいようにしてくれている。それがどれほど難しいことか、友宏はついこの間まで考えたことが無かった。本当はそんなことできるはずがないのだ。ほとんど初対面に近かった。同じ中学を出たとはいえ、お互いにその頃の記憶は薄く頼りない。そんな相手と一緒に暮らして、互いにストレスなく共にいることなんて、何かの奇跡だ。 「お前だって、家族が死んだばっかりなのに、俺とか実家とかのことばっかり考えて、しんどかっただろ」  友宏が思う以上に、睦月は考えていたに違いなかった。どうすれば互いにストレスなく暮らせるか。友宏が自然に仕事に向き合えるか。もしそこに実家の家族のことまで含まれていたとしたら、睦月は自分のことを一体いつ考えていたのだろう。 「そんなの、わかんない……」  頼りない声だった。親に置いていかれた子供のように弱々しく、いじらしい声だった。     
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