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「でも、おれより友宏のほうが寂しいでしょ。おれは光司と五回しか会ったことないもん。最初の顔合わせと、引越しの話と、父さんとお母さんが籍入れた日と、光司が迎えにきた日と、みんなで行ったご飯と。それだけしかない。ここでずっと暮らしてた友宏とか、父さんとか、十八年ぶりに会ったお母さんとかのほうが、辛い……」 「そういうの、時間とか回数じゃないだろ。お前だって、光司のこと、好きだったろ」  俯く睦月の顔を掴んで視線を逸らすのを許さなかった。睦月が不安げに瞬きをする。小さい子供にそうしているような気がして、心が軋む。 「睦月、なんで俺にキスしたの」  いま、胸の上で泣きそうに震えているのは紛れもなく睦月だった。光司の実の弟。 「なんでだろ……なんか、腹立って」  濡れた目で瞬きをして、視線を逸らした睦月が呟く。 「おれ、光司になりたいのかも……。おれが光司だったら、友宏は辛くないでしょ」 「いや、なれないだろ」 「物理的には無理でも、代わりの役割くらいはできるし」  何の気負いもなく言われた。あまりにも当たり前に言われて、胸を突き刺されたような気がした。  昼間の、睦月の母親を思い出した。     
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