3

43/71
前へ
/274ページ
次へ
 どこからどう見ても頼りない顔をしていた。睦月に似てぼんやりとして、息子が二人もいる母親なのに十代の少女のような雰囲気をしていた。昼間、母の隣にいた睦月は、この家にいる時より余程しっかりとして見えた。二人とも顔が似ているから親子だとわかるが、後ろ姿だけ見れば恋人にすら見えたかもしれない。ぼんやりした母親の手を引いたり、荷物を持ってやったり、日傘を差しかけてやったり、その甲斐甲斐しさは、おそらく普通の息子のものではなかった。  睦月は優しい。  母親の前で現れる睦月の優しさが、誰かの代わりになろうとしてのものだとしたら。  そんなことを、睦月はずっと普通のこととして続けてきていたのだとしたら。 「おれがここにいたって、意味なんてないでしょ」  力のない声だった。胸の上で睦月はぐったりとして、動く元気もなさそうだ。 「おれがここにいたって、友宏は楽にならない」  胸の上で、睦月が鼻をすすった。  疲れて胸の上に頬を落とした睦月の頭に、そっと手をのせてみた。細く柔らかな猫っ毛が手の中でくしゃくしゃになる。頭は火照って熱かった。睦月はされるまま俯いている。何をしても睦月はろくに反応しない気がした。友宏が必要だといえば、なんだってさせるのだろう。キスも、それ以上でさえも。無表情のまま。あるいは、光司の顔をして。  そのとき、睦月自身はどこにいるのだろう。睦月の心は無表情に閉ざしているのだろうか。  もしかしたら、睦月の中にさえ、睦月自身はどこにもいないのではないか。     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

932人が本棚に入れています
本棚に追加