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しゃっくりが聞こえた。睦月は黙っていた。何もしない方がいいと思った。泣けるなら泣いたらいい。その方が、きっと楽になれる。
「光司……死んだんだな」
「うん……」
涙を堪え切れない声を聞きながら、睦月は棺の中の兄を見ていた。
生きていたら、光司は恋人が泣いてるのを放って置いたりしないだろう。光司は言っていた。俺の恋人、すっげーかわいいんだ。きっと睦月も大好きになるよ。早くトモと三人で飯とか行こう。
友宏だから、トモ。
ずっと女の人の名前だと思っていた。
※
翌日の告別式もつつがなく終わった。焼き場で母は棺に取りすがって泣いた。焼かないで、とうわごとのように言い続ける母と慰める伯母を見ながら、睦月はずっと友宏の傍にいた。友宏は泣かなかった。光司の遺体が焼かれるのを、じっと待っていた。
炎の中から出てきた骨は白くて綺麗で、理科室の骨格標本で見たようなのが見事に並んでいた。長い箸で拾って骨壷に収めながら、光司も骨になるのか、と他人事のように考えた。頭蓋骨がなかなか入らなくて、いくつかの骨を友宏が箸を突き立てて砕いた。骨壷に収めようと腐心する父に対し、あっさり「砕きますか」と言った友宏の顔は、表情がなく真っ白だった。父には砕けなかったし、睦月は思いつきもしなかった。もちろん、母も。
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