931人が本棚に入れています
本棚に追加
「だって、おれは光司にはなれなかったんだよ。友宏は気付いちゃうでしょ。友宏は、ちゃんと、傷ついて、泣いて、それなら、おれなんていなくていい」
「……睦月、ありがとうな」
しやくり上げる睦月を抱きしめてみた。光司が生きていたらそうしただろう。泣きたいだけ泣かせて、言いたいだけ言わせて、全部受け入れてくれる。
速風光司はもういない。あの大らかさは求めてももうどこにもない。睦月が光司の包容力を求めても、この家に、もう光司はいない。
速風光司は、もういない。
「俺、ずっとお前に甘えっぱなしだったよな。交代しよう、睦月」
睦月が腕の中で堪え切れない泣き声を上げた。泣きすぎて強張る肩を抱いて、子供にするように背中を叩いて、友宏は、睦月が落ち着くのを待つ。
「嬉しかったんだよ。光司と会って、兄弟だって言われて。変な奴だって思ったけど、光司は、笑ってて」
「うん」
「馴れ馴れしくて、道端でも抱きついて来て、なんだこいつって思ったけど、嬉しかった」
「うん」
「家族だって言われて、嬉しかったのに。もっと、話したり、遊んだり、したかったのに」
「うん」
「なんで、死んじゃうんだよ……ばか……」
最初のコメントを投稿しよう!