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 それでも一緒に暮らして、睦月が他の誰より大切な相手になったことには違いはなかった。睦月がいなければここまでやって来られなかった。いまではもう睦月がいない生活を考える方が難しい。家に帰れば睦月がいて、特になにをするでもないのにそれだけで安心した。一緒に暮らしている間、淡々と生活する睦月にずっと甘えてきた。  今度は、自分が睦月を甘やかす番だと思う。  光司がそうしたように。睦月が無言で隣に居続けてくれたように。  光司と睦月は違う。友宏だって光司にはなれない。しかし、違う形で隣にいることはできるはずだ。その関係の名前なんて、友宏は知らない。 「睦月」  軽く呼んだ。無表情の睦月が視線を寄越した。いまはもう涙も止まって、少し赤いような気がする目元と鼻先だけがその名残を残している。白い頬に血色が透けてその顔がいつもより儚く見えた。少し開いているように見える薄い唇は乾いていた。  睦月と光司は似ているが、表情は全然似ていない。  起き上がった。無防備にぼんやりしている薄い肩を掴んで、油断しきった唇に唇を押し付けた。  自分は睦月に恋はしない。光司のときのように苦しく焦がれるようなことはない。心を身勝手に振り回されてまるごと持っていかれるだなんてことは、もう二度と起こらないだろう。光司は特別だった。あれ以上の恋なんて、きっともう二度と訪れない。     
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