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火葬が終わり、用意された仕出し弁当を申し訳程度につまんで、取り敢えず葬儀はすべて終わった。ほとんどいない親戚を見送り、睦月も母と帰るタクシーを手配するなかで、友宏のことが心配になった。光司と二人で暮らしていた家に、友宏は一人で戻れるのだろうか。
探すと、友宏は入り口のあたりでスマホをいじっていた。睦月に気づくと顔を上げた。頬は青白かったが、昨夜よりはまだ表情があった。
「最寄り駅ってどこ。地図わかんねえ」
「坂を下って左だったと思うけど……ここからだと結構遠い気がする。タクシーつかえば」
「いや、歩くよ。なんか……うん」
「……帰れるの?」
別に自分に何ができるわけでもない。それでも、聞かずにはいられなかった。
友宏は少し笑った。強がっている人間の顔だった。平気なはずがない。恋人を火葬し、骨を砕いて拾った人間が、平気であるはずがない。
「帰るよ」
睦月はポケットからスマホを出した。
「ライン教えて。なんかあったら」
「ん。……ハンカチ、洗って返すよ」
「いいよそんなの」
立ったまま連絡先を交換した。きっと連絡は無いだろうと思った。次に会うのは初七日だろうか。
「ありがとな、色々」
スマホの画面を見つめたまま言われた。
「だいぶ……助かった」
それだけ言って、友宏は手を振って出ていった。一人ぼっちの背中が心配だった。
それでも、これ以上睦月にできることなんて無い。
父と別れ、母と二人でタクシーに乗って、睦月は光司のことを考えた。
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