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今度はそっと唇を合わせた。睦月の唇は薄く乾いていて、どうしていいかわからないというように震えている。それを唇ですこし食んだ。睦月が不安げに息を止める。その耳を親指の先で撫でてみる。声になるかならないかの息を吐いたところに舌の先を差し入れると、薄く震える唇に挟まれた。驚いて動けない口の中を舌先ですこし探って、すぐに小さく温かな舌を見つけた。舌の先で撫でて、柔らかく濡らすように絡めてみる。
睦月の体が強張っていた。息もきっと止めたままだ。頬を押さえた両手から睦月の緊張がありありと伝わって、なんだかそれがいじらしく思える。あんまり息を止めさせているのもかわいそうで、驚かさないように、ゆっくり唇を離した。目の前の顔が淡く火照って、震えながら息を吐いた。
「まっ……て。むり。だめ」
震える声が聞こえた。あかるい瞳が潤んで揺れる。俯いた顔を注意深く見つめると、普段は見えない表情があった。
「腰、ぬける……ぬけた。むり」
普段は静かにこちらを見つめる瞳がぎゅっと閉じられた。俯いたまま細かく首を振る仕草が不安げで、いとしい、なのか、かわいそう、なのか、よくわからない感情が湧く。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない……」
下を向いたままの睦月が、ぐったりと倒れこんできた。それを胸で受け止めて、力の抜けた体をなんとなく抱いて、睦月が落ち着くのを待った。
自分からキスなんて、久々にした。
光司とは四六時中したりされたりしていて、それが当たり前だったけれど、最中に息を止めてしまうような相手にするのは初めてだった。
「すごい、恥ずかしい……」
蚊の鳴くような声がした。友宏だって、死ぬほど恥ずかしかった。
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