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「おれ、友宏のこと、好きになってもいいの」
声なのか吐息なのかわからない言葉が聞こえた。
睦月の背を軽く叩いた。華奢で頼りない背中がひどく大切に思えた。ぐったりと預けられた体重は軽い。これくらいの重さなら、友宏は余裕で抱えられる。
「いいよ。こいよ」
なんとなく腹を決める気分で言うと、睦月が笑った。
「友宏、いいこだねぇ」
言葉が笑みを含んでいた。いつも平坦な睦月には珍しい。
「そんなに他人を抱え込んだら潰れちゃうよ」
「お前に言われたくねえよ」
胸に押し付けられた顔が見えないのが残念だった。
なんとなく力が抜けて、睦月を抱えたままベッドに仰向けに倒れた。胸の上で睦月が驚いて、うひゃあ、と変な声を出した。
「睦月さぁ、お前は自分のこともっと考えろよ」
「おれのこと?」
「ぼーっとしてるような顔してるくせに、本当は結構ズタボロだろ」
「そうかなあ」
睦月は友宏の胸の上で、すっかり力を抜いていた。目を合わせていないうちに、先ほどの恥ずかしさはどこかに流れていった。睦月が猫のように人の上で欠伸をする。泣いたり息を止めたりして疲れたのかもしれない。
「友宏」
「ん」
「他人に寄りかかるってきもちいいね」
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