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 いつも通り言われて、なんとなく気が抜けた。  睦月の中で、昨日のことはどんなふうに理解されているのだろう。  睦月は声にも顔にも感情が出ない。だから、睦月のことを知りたければ聞くしかない。 「お前、昨日の今日でなんでそんな普通なの」  寝ぼけた頭に任せて何気なく聞くと、睦月は黙った。マグカップの中身を啜って停止する。 「……さっき砂糖こぼして、これ、やばい」  一口飲んだまま睦月が動かなくなってしまったので、小さい手からマグカップをとって勝手に飲んだ。  頭が割れるような砂糖の味がした。  噎せた。 「なん……これ、お前」  カフェオレだと思ったが騙された。マグカップの中身はすでに飲み物ですらなく、生コンのようにどろりとした砂糖と牛乳とインスタントコーヒーの混合物だった。  勝手に中身を流しに捨てた。こんなもの飲んだら糖尿になる。 「あー、もったいない」 「もったいなくねぇよ、こんなの飲んだら死ぬぞ」  一口飲んだだけなのにまだ口の中がじゃりじゃりする。こぼしたというより、砂糖の入れ物ごとマグカップにひっくり返したという感じだった。棚の中の砂糖入れを見ると、案の定中身がほとんどなくなっていた。睦月は大抵台所では器用なのに、今朝はどうかしている。     
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