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ふいに声をかけられ、睦月は顔を上げた。今日は睦月の同級生や知り合いは呼んでいない。高校からメールは回っているかもしれないが、国公立大学二次試験まであと十日程だし、ちょうどいくつかの私大は試験日でもある。国立文系コースの睦月の同級生が来るとは思えない。
隣を見ると、なんとなく見覚えのある顔があった。真っ平らに凪いだ頭の中を探し回って、それが中学の頃の同級生であることに気がついた。確か名前は、
「ええと……友宏?」
特別仲が良かった覚えはない。それでも中三のときの記憶はさほど努力しなくても蘇った。苗字が思い出せない。中学の頃はみんな下の名前で呼び合っていたから、即座に思い出せる友宏の方がすごいのだろう。
「どうしたの、お葬式?」
セレモニーホールにいる喪服の相手に聞くことではないが、それ以外に何を話していいかわからなかった。友宏は少し傷ついたような顔をして、洗った手を風が出る機械で乾かした。その沈黙の間に、今日ここで行われている葬儀はうち以外にないのだと気付いた。
「光司の友達?」
睦月に兄の交友関係はわからない。光司は確かモデルだかなにかをやっていたはずだし、父に連れられてずっと海外にいたので、どんな人間と知り合いなのかなんて想像がつかない。
「光司は……恋人で」
友宏は、顔を下げたまま言った。
恋人。
そういえば、以前光司と会った時に言われた気がする。そのうち俺の恋人にも会わせてやるよ。めっちゃくちゃかわいいぞ。
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