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 隣の睦月を見下ろすと、いつもの無表情の中にわずかに別のものが見えた。よく見れば、髪の間に隠れた耳が赤い。相変わらず顔は真っ白だが、いつもより頬が赤い気もする。  睦月も同じなのだと思って、少しだけ安心した。告白の翌日ほど気恥ずかしいものはない。  睦月がぼんやり立っているので、睦月のカップを洗ってカフェオレを淹れなおした。ついでに自分のコーヒーも淹れた。睦月のカフェオレはほとんど牛乳だ。睦月は濃いコーヒーが飲めない。一緒に暮らしてしばらく経ってから知った。  突っ立っている睦月にマグカップを渡すと、ぼんやりしたままありがと、と言われた。両手で受け取る手元が危なっかしくて不安になる。  立ったまま、それぞれのコーヒーを飲んだ。  隣から、気恥ずかしさに戸惑っているような気配がした。  昨日のことを反芻した。あの流れでは、一応、恋人同士、ということになるのだろうか。  違う、と、頭の中の誰かが言った。     
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