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浮気とか、二股とか、マイナスなイメージを探せばいくらでも見つかる。そうではないと説明することは難しかった。そんなものは相手の解釈に任せるしかない。光司を忘れないことも、睦月を大切にしたいことも、すべて友宏の勝手だ。
死んだ人間は嫉妬しない。死んだ人間はもう生き返らない。光司は死んで、もう二度と友宏の隣に立つことはなくなってしまった。それでも、ずっと光司は友宏の恋人だ。いままでも、これからも。
「それって、プロポーズ?」
睦月が下を向いたまま言った。
「……そこまで考えてなかった」
言葉の意味が飲み込めなくて、素直に言った。
睦月が無言でカフェオレを啜った。黙ったまましばらくマグカップの中身を眺める。
「おれは、どうしたらいいかな」
胸から空気が抜けるような、頼りない声が聞こえた。
「友宏にそう言われるの、嬉しいけど、でも、どうしよう。わかんなくて。おれ、なんにもできないのに」
珍しく声に不安さが滲んでいた。不安なのは友宏だけではなかった。睦月がマグカップを置いて見上げてくる。
「なんでおれなの?」
不安に揺れる瞳に見つめられて、息が詰まった。
きちんと説明できるのなら、この感情ももっとわかりやすかったのだと思う。
必要だと思った。
以前、睦月はそう言った。唐突にキスをして、光司の顔で微笑んだ後の無表情で。
「……必要だと思ったから」
他に言えることなんてなかった。
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