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愛情なんて傲慢のかたまりだ。何かをしてやりたいなんてこちら側の都合でしかない。
しかし、その傲慢さを押し付けられた時の幸福を、友宏は知っている。
「お前、なんか危なっかしいし。たぶん、お前自覚してるよりギリギリだろ」
「そうなの?」
「……たぶん」
睦月はしばらくじっとこちらを見つめて、不意に俯いた。かすかに鼻をすする音がして、泣いているのだとわかった。
「そうかも……。なんか、言われたら、たぶん、しんどかった」
台所に立ったまま、睦月は少し泣いた。コーヒーを飲みながら、友宏は睦月が泣き止むのを待った。
「甘えたり、頼ったりさ。そういうの、お前、してこなかっただろ」
睦月の方を見ずに言った。
「光司はあんなんだから、勝手に甘やかしてきたけど、俺は、わかんないから……言ってほしい」
睦月はしばらく黙っていた。睦月が落ち着くまで、友宏は視線を向けずに立っていた。光司なら抱き寄せたかもしれない。しかし、自分がそうするのは違う気がした。
速風光司は、もういない。
「そんなこと、初めて言われた」
涙を拭いた睦月が呟いた。
「でも、おれ、どうしたらいいかわかんない……。何をしたらいいの」
「何もしなくていいよ」
涙声の睦月に言った。
「お前がそうやって泣いたりしたら、俺が勝手に甘やかすから」
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