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「社長? 睦月連れて来ましたけど」
八月も終わると言うのにまだ気温は三十度を下回らない。夕方、睦月はぐったりした気分で友宏に渋谷の雑居ビルに連れていかれた。
「おう、お疲れ。睦月君も久しぶり。今日は来てくれてありがとう」
社長は以前に顔を合わせたときより、いくらか砕けた口調で言った。
五月にスカウトされていたらしいことについての話を聞くために、友宏に連れてこられたのだった。睦月自身は言われるまですっかり忘れていたのだが、社長は本気だったらしい。
「友宏、お前、打ち合わせまでまだ時間あるだろ。光司の映像資料いくつか流すけど見ていくか」
「え、マジすか」
「睦月くん来るって言うから出したんだよ。睦月君、こっち」
よくわからないまま二人の話を聞いていると、応接室のような部屋に連れて行かれた。合皮のソファに友宏と並んで座る。テーブルの上には大きめのタブレットが置かれている。
「わざわざ足を運んで貰って悪かったね。これから光司の資料を少し流すから、気楽に見ていってよ。話はそれからしよう」
「はあ……」
睦月はどうしていいかわからなくて、曖昧に頷いた。
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