プロローグ

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 線香の匂いが残るリビングに友宏を座らせて、睦月は何度か来たことがある父の家の台所で茶葉やら急須やらを探した。さっきまで疲れてぼうっとしていた母が追いかけて来て、一緒に客用の湯呑みを探してくれた。 「むっちゃんごめんね。お母さんぜんぜんなんにもできなくて」 「仕方ないよ、こんなときだもん」 「むっちゃん、頼りになるもんね」  母は今日までに散々泣いて、少しは落ち着いたようだった。疲れて呆けたようになっている母がお湯を沸かしているのを見ながら、客用の菓子くらいあるかな、と戸棚を漁ってみる。そばぼうろ、と書いた四角い缶が出てきたので。勝手に開けてその辺の皿に盛った。母の様子を気にしながらリビングに持っていくと、友宏と父が向き合って座っていた。 「あの家も……出た方がいいですよね」 「いや、そういう話じゃなくて……その、なんて言ったらいいかな」  友宏は思い詰めた顔でテーブルを見つめており、父はそれをもどかしそうに見ていた。 「なんの話?」  テーブルに皿を置き、睦月は横目で台所の方を伺った。母はお茶を人数分淹れようとがんばっているようだった。持ってくるだけなら一人で大丈夫だろう。友宏の隣の椅子が空いていたので腰掛けて、睦月は父の顔を見つめてみる。父は困っているようだった。そんな父の前で、友宏は追い詰められているように見えた。 「……友宏君が、光司と一緒に住んでいたのは知ってるよな」 「同棲?」     
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