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 言われて、顔を上げた。社長は顔こそ笑っていたが、睦月の奥を見据えるような目をしていた。 「葬儀で初めて見た時、初対面なのに随分物怖じせず見てくる子だなと思ったんだ。そのあと五月に劇場で見かけたときは全然違う顔をしていたから驚いたよ。プライベートの光司に似ていたけど、あれは友宏用かな。俺と話すときや友達と一緒にいるときもまた別の顔をしたね。表情はあまり変わらないのに、雰囲気が急に変わる。それも、かなりさり気なく。もしかして、無意識かな」  一気に言われてたじろいだ。そこまで見られていたなんて知らなかった。確かに妙に見てくる人だなとは思っていたけれど、光司と似ているからだろうとしか思っていなかった。  社長は圧力のある笑顔を見せる。 「ごめんね、驚かすつもりじゃないんだ。ただ、あれがすべて無意識でも、意識的にやっているのだとしても、相当な才能であることには変わりないなと思ってね。……どうなのかな」 「半分くらいは……意識してるかもしれません」  圧力に気圧されながら答えると、社長は頷いた。 「光司もね、そういう人間だった。俺と二人きりの時と友宏がいるときとでは、全然雰囲気も話し方も違ったからね」  猫を被っている、というわけでもないらしいんだけど、と社長は続ける。     
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