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「相手に徹底的に合わせる、というのかな。光司は意識的にやってたらしいよ。だから誰もが光司を好きになる。光司はわがままでマイペースだったけれど、自分のペースに相手が合わせやすいようにしてるって言ってたね。速風光司に巻き込まれる、というのを相手に楽しませてたんだ。相手が見たい速風光司をいつもやってくれていた」
そうなのかもしれない、と思ったのは、睦月の前で微笑む光司を思い出したからだ。光司は確かにわがままでマイペースだったが、それでも光司のペースに巻き込まれるのは楽しかった。光司が学校まで迎えに来た十二月の金曜日。めちゃくちゃに連れ回されたのに疲れより楽しさの方が大きかったのは、きっと光司が気を使ってくれていたからだ。本当に、光司はこちらをよく見ていた。二人きりで出かけるなんて初めてだったのに。
「光司とは違うだろうけど、君からも似た雰囲気を感じてね」
言われて、首を振った。光司と同じことなんてできる気がしなかった。確かに多少は意識している。母の前では頼れる息子であるように。父の前では次男らしく多少無遠慮に振る舞うように。マミの前では話しやすい弟のような友人に。友宏の前では恋人の――光司のように。
友宏の言葉を思い出した。
なにもしなくていい。
友宏だけでなく、光司もそう言った。
街中を連れ回された日、睦月を高校の正門まで迎えにきて、いきなり腕を引っ張って抱き寄せて言ったのだ。睦月、なにもしなくていいよ。一緒に遊ぼう。
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