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その時は唐突すぎて、意味がわからなかった。けれどいま思い起こせばあの日、光司は睦月に本当になにもさせなかった。ただ連れ回して、買い物をして、買い食いをしたりカフェに入ったり、それだけのことが本当に楽しかった。
顔を合わせていた時間を数えたとしても、きっと丸一日分もない。
光司の中の睦月もまた、同じくらいであったはずなのに。
「おれは……ばれました。友宏にも、光司にも」
同じことができるはずがない。睦月にはわからなかった。睦月は、光司にはなれなかったのだ。
「それは単純に、友宏も光司も、君に何も望んでなかったからじゃないかな」
言われて、顔を上げた。
「人は見たいものしか見ないからね。だからこそ偶像じみた芸能人なんてものを信じられる。多くの人間には、望むものが見えるようになっているんだよ」
社長は当たり前のことのように言う。その言葉に、頭を殴られたような気がした。
自分は光司に何を望んだのだろうか。
仲良くなれると思っていた。
仲良くなりたいと思っていた。
あんなにめちゃくちゃで、マイペースでわがままな兄ができて、嬉しかった。
光司は、見抜いていたのだろうか。
「いますぐ答えを聞きたいとは言わないからさ。睦月君、受験生だろう。落ち着いてからで構わないから、考えてみてよ」
社長は穏やかに笑う。
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