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「見たいものになれる、というのは才能だし、無意識でも意識的でもそれをやってしまうなんて、すごく優しい人間だと思うよ。それを活かそうと考えてくれたら嬉しいな」  言われても、睦月には返事をすることができなかった。    それから睦月はいくつか資料を渡されて、階下で待っていた友宏と合流した。打ち合わせはすぐに終わったらしい。二人で一緒に駅に向かい、帰宅ラッシュを過ぎた夜の電車で、運良く並んで座ることができた。睦月はなんだか疲れてしまってため息をついた。家の最寄り駅まではいくらもかからない。眠れはしないだろうけれど、目を閉じていようと思う。 「着いたら起こして……つかれた」  リュックを抱えながら言うと、スマホを見ていた友宏は、ん、と生返事をした。  電車はなかなか動かなかった。聞き取りづらい車内放送によると、どこかの線が止まっている影響らしい。少しかかるかな、とあくびをすると、友宏がこちらを見た。 「肩、使う?」  何も考えていなさそうな真顔がこちらを見つめていた。 「……使う」  数秒考えて、頷いた。  リュックを抱えたまま友宏の肩に頭を載せた。正直楽な姿勢ではなかったけれど、友宏に触れているところから少しずつ、力が抜けるような気がした。友宏の体に触っていると安心する。なぜだかはわからない。  光司に連れまわされた日のことを思い出した。     
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