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クリスマス前の浮かれた街で思う様買い物をして、光司は満足げだった。睦月も楽しかったけれど、久々に学校と家以外のところに来て疲れてしまっていた。帰り道、当時母と二人で暮らしていたアパートの最寄りまで送ると光司が言うので、二人で夜の電車に乗った。座席に座るなりため息をついた睦月を見て、光司はさっきまでのはしゃぎ方が嘘のように低く囁いた。睦月、眠い? いいよ、こっちおいで。着いたら起こしてあげる。
大きな手で引き寄せられて、骨張った肩に頭を預けて、妙に安心したのを覚えている。
光司は、友宏にも同じことをしただろうか。
こちらを見つめる光司の優しい視線を思い出した。肩を抱かれたときの安心も。
友宏からも、同じ気配がした。
甘えさせて貰えるのだと思った。素直に甘えたほうが相手は嬉しいのだろうとも。
ここでわかりやすく甘えたら、友宏は怒るだろうか。
友宏の前でどうするのが正解なのか、睦月にはもうわからない。
何もしなくていい。
それがどういうことなのか、睦月には難しすぎる。
「友宏」
「ん?」
声をかけると、友宏は無意識みたいな軽さで返事をした。
何の気負いも無い様子に、少しだけ気が抜けた。
友宏が言うのは、もしかしたらものすごく簡単なことなのかもしれない。
「ありがと」
「おう」
こちらを見ないで返された返事には、何の意味もこもっていなさそうだった。
※
父に会いに行った。
九月半ば、実家のマンションの中庭はわずかに黄色くなり始めている。隣の家のドアにハロウィンのかぼちゃのシールが貼られていた。気が早いな、と思いながら、インターホンも鳴らさず勝手に鍵を開けて入る。中からなにか甘い匂いがする。
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