プロローグ

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「まあ……うん。その家が、うちの持ち家なんだ。元は下宿だったから住むには不便だし、光司の好きにさせてたんだけど、そこに、いま友宏君一人だろう」  慎重に言葉を選ぶ父の話を聞いて、その先に続く言葉が、睦月にはわかってしまった。 「追い出す気なんて無い。ただ、二年も前に光司にやった家だから僕はあの家の現状を知らないし、なにより、一人で住まわせておくなんて……」  素直に言葉だけ聞いていれば、父が心配に思うのは理解できた。しかしそれ以上に、現実的な問題があるのだとも思った。光司と一緒に住んでいたのなら、きっと友宏は家賃や契約の話なんてしていないはずだ。これからは、父にとっては睦月と同い年の子供、それも、恋人を失ったばかりの他人の子供を一人預かることになる。現実的に考えれば、友宏と父は大家と借主の関係になる。  しかし、そんな話、いまの友宏にできるわけがない。  友宏の横顔を盗み見た。友宏は青ざめて、追い詰められていた。友宏にとっては光司との暮らしをまるごと奪われるようなものだろう。光司と友宏がどれだけ一緒に住んでいたのかは知らないが、父の言葉はきっと、友宏にとっては「出て行って欲しい」と同じ意味に聞こえた。     
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