プロローグ

23/25
前へ
/274ページ
次へ
 なにかが握りつぶされている気がした。誰も悪くないのに、互いを傷つけあわなければならないような気になっているように見えた。きっと父にも友宏にもわからないのだ。二人とももうぼろぼろなのに、それ以上に傷つこうとしているように見えた。 「俺、そこに引っ越すよ」  そばぼうろをひとつつまんだ。梅の形のぼそぼそした塊を食べながら、父をじっと見つめた。 「もともとここに引っ越してくる予定だったし、おれ別にどこに住んでもいいし。ちょくちょく光司遊びに来てたし、そんなに遠くないでしょ?」 「え、いや、睦月?」 「一人は心配だって話でしょ? あとは家賃とか遺品とか? おれがそこにいれば問題ないんじゃない? 光司のものもわざわざ持ってこなくてよくなるし、おれの同居人なら家賃とかいらないし、二人になるし」  もともと睦月が高校を卒業したら、そのまま父のマンションで同居するはずだった。いま母と二人で住んでいるアパートの契約は三月で切れるし、どちらにせよ引っ越さねばならないことに変わりはない。 「言ってなかったっけ。おれと友宏、中学おんなじだったの。だから、べつに初対面の人と住むわけじゃないし」     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

933人が本棚に入れています
本棚に追加