プロローグ

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 ちょうど母があぶなっかしい手つきでお茶を持ってきたところだったので、お盆を受け取って父と友宏に配った。母にも湯呑みを渡して、自分は行儀悪くお盆からとったその手でそのまま飲む。母の淹れ方が下手くそだったのか、お茶は冷めてぬるかった。ついでにびっくりするほど苦かった。 「なんのお話?」  母が今更のように言った。父は母の言葉に我に返って、ごめん、ちょっと、と立ち上がった。混乱しているようだった。別室にいなくなった父を母が慌てて追いかけた。 「お茶おいしくないや。あとで淹れなおすね」  友宏を見ると、びっくりした顔がこっちを見ていた。その顔を見て、いま自分が言ったことがあまりにも唐突だったことに気づいた。 「……ごめん、早まったかも」  父とのやりとりを反芻して、なんだか申し訳なくなった。妙にむしゃくしゃして思いつくまま並べ立てたが、友宏のことをまるで考えていなかったかもしれない。勝手に一緒に住むなんて言ったけれど、睦月は友宏のことなんてなにも知らないのだ。  それでも、友宏を一人にしておくよりずっとましだと思った。こんな状態の友宏を、きっと光司は放っておかない。 「いや……べつに」  友宏が歯切れ悪く言った。言いながら少し迷って、睦月を不安そうに見つめてくる。 「なんで?」  真っ当に聞かれた。その当たり前の疑問に答えるのに、ちょっと考えなければならなかった。 「……出て行けなんて言えないし、光司のこと、好きなんでしょ」     
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