プロローグ

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 今更気まずくなった。たぶん一瞬で頭に血が上ったんだな、とようやく思った。父にも友宏にも悪いことをしたかもしれない。言ったことを取り消す気なんてないが、言い方とかタイミングとか、もっと考えてから言うべきだった。 「それとも、おれ、一緒に住んだら邪魔かな」  手持ち無沙汰で苦いお茶を啜った。 「……出て行くより、ずっといい」  すごく小さな声が聞こえた。 「それに、正直、あの家に一人でいるの、しんどかった」  今日まで、一人で光司と住んでいた家にいたであろう友宏を想像した。一週間、恋人が消えた家で、友宏はなにを考えていたのだろう。  友宏がお茶を啜った。苦い、と言って少し笑ったので、ちょっと安心した。 「あのね、おれも、光司と仲良くなれるって思ってた。だから、光司の話をしてよ。一緒に住んだらさ」  言うと、友宏は頷いた。  父と母が戻ってきた。まだ混乱が残る父は、じゃあ、とりあえず四十九日まで暫定で住んでみなさい、と言った。その隣で、母がなにもわかっていないような顔で首を傾げた。
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