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 友宏はラフなベージュのコートを羽織っていた。三月上旬とはいえ睦月は冬のコートにマフラーを巻いているから、二人で歩くと季節を間違えた人みたいだ。並んで歩くと友宏は睦月より大分背が高かった。光司ほどではないが、結構上から見下ろしてくる。葬儀の時には気がつかなかった。光司と並んだら絵になっただろう。光司はモデルだったし、友宏は俳優だと聞いた。絵になる仕事なんだから当たり前のことなのかもしれない。  友宏は気にした風もなくどんどん歩く。薄手のコートの裾が向かい風にふわっとなった。春だけれど、風がつめたい。 「寒くないの?」 「近いし。お前こそ暑くね?」 「マフラーあったかいよ」 「ふうん」  だらだら歩いたらすぐに着いた。  家は想像よりずっと大きかった。外観は古いが中は光司が好き勝手にリフォームしているらしい。古めかしい引き戸は鍵が渋いらしく、友宏は開けるのに何度か手首を動かしていた。がらがらとうるさい扉を開けると中は明るかった。玄関からいきなりまっすぐの廊下があって、突き当たりにでっかい観葉植物がある。 「トイレはすぐそこ。右が食堂と台所で、台所の奥に風呂とか洗面所。左が部屋。俺の部屋が入り口の方で、光司の部屋が隣。で、奥がテレビとか置いてる部屋と寝室。鍵、親父さんから貰ってきてる?」 「うん。広いね」 「元は平屋の下宿だったのを光司が色々したらしいから」     
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