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 板張りの床を歩くと靴下が滑った。裸足で歩いたら足の裏がつめたいかもしれない。スリッパかなにかあるだろうか。 「友宏ー、スリッパある?」 「え、俺いつも裸足だけど」  洗面所に行くと友宏が丁寧に手を洗っていた。きちんと手首まで洗って丁寧に流しながらしばらく考えて、光司の部屋にならなんかあるかも、と呟いた。 「あそこ、おれ勝手に触っていいの」 「いいよ。お前、弟だろ。俺は……なんか、無理だから」  友宏はその辺からキッチンペーパーをとって丁寧に手を拭く。 「あ、でも、植物とかは捨てないでほしいかも。あれ、友達からの貰い物なんだって。結構世話に手間かかるけど」 「なんにも捨てないけど、おれ、どこで寝たらいいの」  手を拭いて今度はハンドクリームを擦り込んでいた友宏が、びっくりしたような顔でこっちを見た。 「忘れてた。そうだよな……」  友宏は睦月の顔をじっと見てしばらく黙り、まあ、いいか、と呟いて洗面所を出た。 「こっち」  言うのでついて行く。  廊下を横切って奥の部屋に連れていかれた。壁をぶち抜いた九畳にはでっかいテレビとソファがあって、床にクッションやひざ掛けが散らばっている。そこを通り過ぎた隣の六畳には白い暖簾がかかっていた。中が見えない。 「俺も光司もこっちで寝てたからすっかり忘れてた……」     
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