プロローグ

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 恋人って男だったんだとか、友宏は少なくとも睦月の目には可愛くは見えないとか、そんなどうでもいいことが一瞬で頭を駆け巡って、思わず黙ってしまった。 「睦月は?」 「光司は……兄で」 「兄?」 「親が再婚して、半年くらい前に初めて会った……。血も繋がってる。両親、二度目の結婚だから」 「弟できたって、睦月のことだったんだ」  それきり友宏は黙って、睦月も黙った。通夜の夜に同級生と再会というのも妙だったし、相手の言葉に面食らって、互いに言えることがなかった。 「あ、睦月、いた」  父の声がした。入口の方を見ると父が手招きをしていた。そんなに長い間外していただろうか。向かおうとすると、睦月より先に友宏が父に駆け寄った。 「御無沙汰してます……あの」 「あぁ、友宏くん……きみ、いつ着いて」 「今朝の新幹線で、さっき東京に戻ってきて……あの、光司は」  友宏の言葉に、父は何も言わなかった。言えなかったのだと思う。光司は既に棺の中だ。  何も言えない父と、同じく言葉を失った友宏を見ながら、睦月はゆっくり二人に近づいた。父も憔悴していたが、友宏もまた混乱した顔をしていた。実の兄を失った自分より余程。 「父さん」 「ああ、睦月。そろそろ人が来始めるから、親族席にいてくれないか。父さんは挨拶とかあるから……」 「お母さんは」 「いま落ち着いてるから、父さんの隣にいてもらうよ」     
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