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 友宏が暖簾を捲ると、テレビでしか見たことがないような巨大なベッドがあった。ダブルよりでかい。睦月が三人寝てもまだ余りそうだ。 「……二人用?」  素っ気ない白木の枠に白いシーツと枕がふたつ。六畳はほとんどベッドだけで占められていて、ベッド横に小さいテーブルがある。 「もとは光司が一人で使ってたらしいけど。あいつすっげえ寝相悪いんだよ」 「えっと……おれ、ここで寝ていいの」  ぼんやり理解はしていたが、急に友宏が光司の恋人だったという事実が生々しく思えてきた。だって、これ、恋人同士の寝室ってやつだろう。 「別に……修学旅行みたいなもんだろ」  友宏は、なんでもないことように言った。 「友宏がいいなら、いいけど」  他に言えることがなくて、呟いた。確かにベッド自体はとんでもなくでかいし、畳に布団を二枚くっつけて敷くのと大差ないのかもしれない。  でもきっと、この寝室にも、観葉植物だらけの光司の部屋にも、いろんな思い出が染みついているのだろう。あまりピンときていなかったが、恋人同士ならセックスだってしてたに違いない。  そんなところに住むことに今更気が引けてきたが、友宏を一人にしておくほうがもっと駄目なのだということはわかっていた。睦月の家族にとっても、友宏にとっても。     
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