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 光司の葬儀が受験日に被ったため、睦月は浪人することになっていた。父に予備校は行かないのかと言われたが、もともと余裕で合格圏内にいたし、勉強するのにお金をかけるのも気が引ける。友宏と住むための生活費を振込んでもらっているのに、更に予備校の学費まで父に払わせようとは思えなかった。母と二人で暮らしていた頃とは違って、睦月の高校の奨学金を返済してもまだ余裕で支払えるくらいの家庭になったのはわかっていたにしても。 「これからよろしくな。いろいろ、あるかもしんないけど」 「うん、こっちこそ」  先に言ってくれた友宏を、大人だな、と思った。牛丼に七味をかけるところも、味噌汁を熱いまま飲めるところも。  睦月は七味が苦手だ。味噌汁も、冷ましてからでないと飲めない。  友宏との生活は驚くほど穏やかだった。  睦月が八時とか九時とかに起きると友宏は日によっていたりいなかったりする。朝から夜中までいないこともあれば、昼過ぎに出て夕方に帰ってくることもあった。やることがなかったので、睦月は勉強をしたり観葉植物の世話をしたりしていた。光司の部屋を好きにしていいとは言われていたが、結局荷物はテレビの部屋にプラスチックの引き出しを買って運び込んだ。光司の部屋は今の所ただの温室だ。  夜は大抵睦月の方が早く寝る。友宏の生活時間はムラがあるし、風呂に入った後にストレッチとか筋トレとか色々やっているようだった。洗面台には母が使っていたような化粧水とかの瓶が置いてあるし、俳優って大変だな、と思う。     
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