933人が本棚に入れています
本棚に追加
「舞台で光司の代役が決まりそうで。光司細かったし、役的にも細身の華奢なやつだから」
友宏は言ったが、睦月の目にそれは言い訳に聞こえた。絞らなくてはいけないから食べないのではなく、食べられないのだと思った。食事が喉を通らないくらい、友宏は追い詰められている。
「来週から忙しくなるから、全然家にいないと思う」
ある朝、出がけにそう言った顔が真っ白で心配だった。
「いってらっしゃい。がんばって」
それでも他に言えることがなくて手を振ると、友宏は少し笑った。無理をしているような笑顔が見ていて辛かった。
引っ越してきてよかったのだと思う。
睦月がこの家にいれば、倒れたりする前に、無理にでもなんとかすることができる。
思い立ってスマホで友宏の名前を検索した。
『狭間友宏 俳優』
事務所のプロフィールページが出てきた。リンク先に『速風光司』の名前もあった。
狭間友宏。十八歳。身長一七七センチメートル。過去の出演作はこちら。
速風光司。二十二歳。身長一八四センチメートル。過去の出演作はこちら。
二月十三日に永眠されました。彼の冥福を祈ると共に、深い感謝を捧げます。
速風光司はもういない。
プロフィールページの友宏の写真は、今よりずっと健康そうだった。
※
最初のコメントを投稿しよう!