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 訳もわからず裏口から中に連れていかれ、誰も通らない廊下のソファに座らされて、しばらく待て、と言われた。わけもわからずぼうっと待っていると、友宏が現れた。 「睦月、ごめん。裏から来てって言うの忘れてた」 「いいけど。どうしたの」 「いや、お前めちゃくちゃ光司に似てるから念のためって社長が」  朝、いつもの私服で出ていったはずの友宏は、細身の黒いスーツに着替えていた。  あとで関係者席に連れていくから、と友宏は隣に座る。 「おれ、そんなに光司に似てるかなあ」  睦月自身、光司に似ているという自覚はなかった。同じ両親から生まれているから他人よりは似ているかもしれないが、光司の方がずっと華やかで美人だったように思う。そもそも自分の顔にあまり興味がなかったので、真剣に見比べたこともない。 「いや、お前の方がだいぶ小さいし、喋ったり動いたりしてると全然似てねえけど、寝てる時とか、黙って大人しくしてたら同じ顔してるときあるよ」  友宏はなんでもないことのように言って、でも光司全然黙ってなかったし、顔面もうるさかったけど、とついでのように続けた。 「顔面がうるさいって面白いね」  そんなに似てる人間が毎日隣に寝てて大丈夫、と聞こうとして、やめた。大丈夫じゃない、と言われても、友宏をあの家に一人にしておこうとはもう思えない。     
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