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 社長はジャケットの内ポケットを探って、名刺とボールペンを取り出した。名刺の裏にさらっと何か書いて手渡される。 「何かあったら裏の番号に連絡してくれ。友宏のことでも、それ以外でも」  名刺を受け取ると、会社の名前と、代表取締役社長、と書かれていた。 「友宏は両親を亡くしていてね。親代りなんて言う気はないが、大事な俳優だ」  言われて、中学の時にそんなことを聞いたことがあるような気がした。別に仲が良かったわけではないので、詳しくは知らないけれど。  この仕事に興味があるならいつでもおいで、と言い残し、社長はまたどこかに消えた。  お別れ会は、葬儀よりずっと物々しさがなかった。光司を悼む映像がスクリーンに映され、間に『モデル仲間』や『カメラマン』や『雑誌の編集者』やらがスピーチをして、華やかな雰囲気だった。光司がどんな仕事をしているのか睦月は初めてまともに知った。モデルだと言っていたが、雑誌の専属モデル、有名美容室の専属モデル、その他ファッションブランドの広告やCM出演なんかもやっていたようだ。  光司は人気者だった。誰もが光司を「明るくて華やかなムードメーカー」と言い、早すぎる死を悼んだ。     
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