プロローグ

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「わかった。じゃあ、おれは向こう行ってるね」  半年前に知り合った実の父は、証券会社に勤めていたせいかやけに知人が多い。弔問客への挨拶だけでもかなり気を使うだろう。  父の話を聞きながら、睦月は隣の友宏の顔を覗き見た。青白い顔をしていた。悲しみの中ではなく、そこにすらまだ辿り着けていない混乱しきった横顔。  なんとなく、放って置いてはいけない気がした。 「父さん、友宏も一緒でいい? おれは端に座るし、問題ないでしょ」 「あ、ああ。もちろん。その方が、きっと光司も安心する……」  光司、という響きに友宏の肩が強張った。死んだ人間は安心なんかしない。 「友宏、こっち」  棒立ちの友宏の手を掴み、睦月はトイレからホールへと移動した。まだ弔問客はまばらで、しかし、ところどころに父の仕事関係者であろう喪服の男がうろうろしている。     
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