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 大勢の人が一言ずつ述べた後、一人だけ違う雰囲気を持って祭壇の前に立ったのは友宏だった。葬儀の日とは違う細身のブラックスーツを着た友宏は、家にいるときよりずっと大人びて見えた。睦月が見たことのない顔をして、背筋を伸ばして祭壇の光司を見つめ、語り始めた。  二月十日、福岡に向かった日の朝が最後になるだなんて、思ってなかったよ。寝起きのまま眠そうに、頑張れ、行ってらっしゃいって言われたのが最後の会話になるなんて、ぜんぜん、思ってなかった。  十三日、仕事の後に訃報を聞いて、嘘だと思った。でも、電話をしてもお前は出なくて、何度もかけたのに、なんにも返ってこなかった。本当に、お前はもう死んじゃったんだな。俺はまだ、お前になんにも返せていないのに。  一昨年の十一月に初めて会った時から、お前は俺の人生を全部変えたんだ。家の事情で住むところを探さなきゃならなくなったとき、「うちに来る?」って簡単に言われたのをよく覚えてる。その時俺たちはまだ出会ってから一ヶ月も経ってなかったのに、お前は俺に大好きだって言って、お前もそうだろって図々しく言ってきて、非常識なやつだと思ったけど、お前の言う通り、俺はもうその時にはお前のことが大好きだった。俺が遠慮したり悩んだりするのを全部笑いとばして、お前は俺を、親鳥が巣に子供を引き込むみたいに家に連れ込んだんだ。     
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