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 俳優の狭間友宏も、ただの狭間友宏も、全部お前に救われたのに。  光司。俺はもう、お前になにもできない。  ごめんな。  ありがとう。  大好きだよ、光司。  本当に、何を考えても、これしか言えることがない。  光司。  お前がいてくれて、お前に会えて、本当に、幸福だった。  友宏がマイクの前で目を閉じ黙祷するのを、みんな何か神聖なものでも見るように見ていた。友宏の弔辞はあまりにも赤裸々で、何も隠していなくて、だからこそ友宏が本当に光司のことを愛していたのだということが痛いくらいに伝わった。そんなことをみんなの前で恥ずかしがらずに言える人間なんてそんなにいない。胸を張って「大好きだ」と言える友宏をかっこいいと思った。長い黙祷を終えて祭壇に背を向けた友宏は、誰のことも見ていなかった。  友宏が座った後、最前にいた社長が立ち上がって同じようにマイクの前で話し始めた。睦月は後ろの席からずっと友宏の背中を見ていた。友宏は大人しく社長の話を聞いているようだったが、突然席を立ち、後ろのドアから出て行った。なんとなくそうしなければならない気がして、睦月もこっそりその後を追った。     
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