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 友宏の方がずっと大人だ。  一緒に暮らしているのに、睦月には友宏の寂しさや悲しみを、どうすることもできない。  顔を洗いたいという友宏のジャケットとネクタイを預かった。友宏は普段よりだいぶ豪快にざばざば顔を洗ってペーパータオルで顔を拭き、「こんな雑なことしたら社長に怒られるんだけどな」と笑った。それでも少しさっぱりした顔をして、ネクタイを締め直してジャケットを羽織った。顔を洗うだけで切り替えた姿が、なんだか眩しくて痛々しかった。 「戻らなくてもいいの?」 「まだいいはず。みんな帰っちゃう前に誰かしらに挨拶しなきゃかもだけど、もうちょっと大丈夫だろ。誰も来ないし」  終わってたら誰かトイレ来るだろ、と言って友宏は廊下のベンチに座る。睦月も隣に座った。ホールの方からは光司の映像を流しているらしい音楽が聞こえていた。 「あー、情報解禁今日の二十時だから夜までは黙ってて欲しいんだけど、光司がやるはずだった役、決まった。四十九日とかは空けてもらうけど、休みなくなりそう。俺だけ稽古期間短いから自主練したいし、本格的に絞るからトレーナーさんとこ通わなきゃなんないし」     
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