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 ぼんやりした声で友宏が言って、睦月はその横顔を覗き見る。ここ十日ほどで、友宏はだいぶ痩せた。華奢ではないが細く見えるし、筋肉質で余分な肉がついてるようにも見えない友宏が、これ以上絞るのは無茶なように見えた。しかし、仕事に口出すようなことはしてはいけないと思った。決めたのは友宏だ。 「大丈夫なの? 休みなくて」  それで、当たり障りなく言った。最近もとのスケジュールに戻ったらしい友宏は、週に一回休みがあるかないかの生活だ。 「別に珍しくないよ。地方公演ないから家には帰れるし」  友宏はなんでもないことのように言う。言われてしまっては、睦月には何も言えない。 「おれはわりと暇だからさ、いろいろ気にしなくていいよ。がんばって」  せめて力になれることがあれば、と思って言うと、友宏は笑った。なんだか光司と話している時みたいに、おおらかに全部受け入れられている気がした。  家事をしたり友宏が仕事に行くのを見送ったりしている間に四十九日はあっという間に訪れた。四月に入ったのに喪服を用意するのを忘れていた睦月は、とりあえず友宏からジャケットとネクタイを借りて、ありものの黒いズボンを履いた。両親と伯母と友宏しか来ないので困ることは無かった。母は以前離婚した時に実家から絶縁されているらしいし、速風の家も親戚は少ない。  友宏と二人で実家――父のマンションに行くと、両親はあからさまに驚いた。亡くなった息子の恋人が初七日より一気に痩せていたのだから無理もない。     
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