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「舞台の役作りで絞ってるんです。トレーナーもついてるし、大丈夫ですよ」  納骨後の食事の席で友宏は言ったが、半分嘘であることは黙っていた。  確かにトレーナーはついていた。友宏は冷蔵庫にジムで貰ったらしい食事制限の紙を貼っているし、なんとなく睦月もそれに合わせてカロリーが高そうなものは一緒の時には食べないようにしている。家にいる時には気がついたらストレッチをしているし、台所にはプロテインの袋とサプリメントの瓶が置いてある。一日にたんぱく質が何グラムで糖質脂質は最低限、ビタミンが何グラムで鉄と亜鉛と、あとはなんだっけ。  友宏はほとんど食事を摂らなくなっていた。それが食事制限のせいだけでないのを睦月はなんとなく察している。食べられないのだ。もともと食欲が落ちていたところに食事制限とトレーニングが入り、更に舞台の稽古が入って、友宏は毎日疲れ切って帰って来る。それでも倒れるわけにはいかないので、プロテインとか栄養ゼリーとかを摂ってなんとか仕事に行く。お別れ会の日の翌日から、友宏は丸一日家にいた日がない。 「光司の代役なんだって」     
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