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 何か言いたそうな両親を遮って言いながら、睦月は心配になる。睦月は俳優の仕事を知らない。友宏のいつも通りなんて知らないし、体を絞るということがどういうことなのかもわからない。  それでも、いまの友宏を一人で放っておいてはいけないのだということくらいはわかるつもりだった。仕事に口を出すことなんてできないし、仕事に対する友宏の意地やプライドを横からどうにかしようとも思わない。それでも、あの家に一人にしておくよりはまだましなはずだった。  五回しか顔を合わせたことがなくても、これだけははっきりとわかる。  光司がいたら、こんな友宏を放っておくはずがない。  頬もそげて、青白い顔で、それでもなんとか仕事に行く友宏を、役のために体を限界まで絞る恋人を、放っておくはずがない。  食事の後、両親を捕まえて言った。 「おれ、もう普通にあっちで暮らすよ」  もともと四十九日までの暫定だったが、このまま睦月だけ両親の家に引っ越すなんてできない。  父は黙って頷いた。母がどこか抜けたような声で、むっちゃんが友宏くんにとられちゃった、と呟いた。  限界は大体いつも突然訪れる。     
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