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 普通の朝だった。最近九時前に家を出る友宏に合わせてなんとなく早起きするようになった睦月は、台所で牛乳を飲んでいた。友宏は毎朝シャワーを浴びてから出かける。出がけにプロテインを飲んで行くので、出しっぱなしになっている袋から専用のプラスチックのコップに粉を計って移しておいてやる。  洗面所の方からドライヤーを使う音が聞こえていた。友宏は今日も夜まで帰ってこないはずで、睦月自身は暇なので、布団カバーでも洗っておいてやろうかな、と考える。睦月は寒がりだが友宏は暑がりなので、気温が上がってきた最近は朝起きると睦月の方に布団が全部寄っている。掛け布団だけは二枚にした方がいいかもしれない。友宏はもう暑いだろうけれど、睦月はまだ冬の布団をしまいたくない。  立ったままぼんやり考えていると、不意に洗面所の方で派手に何かを落とした音がした。びっくりしてぼんやりしていた目が覚めた。慌てて見に行くとスイッチが入ったままのドライヤーが床に落ちていて、それを呆然と見ている友宏がいた。慌てるでも、ドライヤーを拾うでもなく、友宏はじっと床を見ていた。  だめだ、と思った。  取り敢えず床に落ちたドライヤーのスイッチを切ってコードを抜いた。歯磨き用のコップが落ちていたのでそれも拾う。友宏の足に物が落ちなくてよかったと思い、それでもまだ動けないでいる友宏の顔を、下から覗き込んだ。真っ白だった。目はどこも見ていなかった。 「大丈夫?」     
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