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 大丈夫なはずがない。思いながら声をかけた。友宏はようやくそれで何かに気づいた。 「あ……ごめん」 「いいから」  慌てて何か言おうとするのを遮って、睦月は友宏の腕を掴んだ。洗面所から引っ張って寝室に連れていき、ちょっと乱暴かと思ったがベッドに押し倒して布団を被せてその上に伸し掛かった。 「ちょっと、睦月、なに」 「黙ってて」  外から見ても限界だった。なにがどうであれこのまま友宏に行ってらっしゃいなんて言えなかった。睦月はベッドに置きっぱなしだった友宏のスマホをとって布団の中から友宏の手だけ引きずり出し指紋認証でロックを解除、通話の履歴をあさって目当ての名前を見つけ出し、勝手に電話をかけた。友宏が布団の中でなにか言っていたが無視した。  そもそも友宏が睦月を押しのけられない時点でもう駄目なのだ。睦月の方が明らかに小さいし華奢だし、体を絞っていても友宏のほうがまだ体重があるし力だってある。そのはずだ。  コール三回で相手が出た。 『友宏? どうした朝っぱらから』 「おはようございます、速風睦月です」  睦月が言うと、社長は電話口で一瞬黙った。 『……おはよう。なにかあったかい?』 「友宏、今日だめなんで、予定とかなんとかして欲しいんですけど」 『……だめって、具体的にどうしたの』     
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