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「家でぼーっとしててでかいもの落として怪我するとこでした」 『……友宏に代われるかな』  睦月は伸し掛かったまま友宏の布団をちょっと捲って、耳元に電話を差し出した。友宏は言わなくても誰だかわかったみたいで、素直に受け取った。電話口に向かって最初こそぐずぐず言っていたが、何度か謝ったり頷いたりして、最終的に諦めたようだった。 「……すみません、ご迷惑かけて」  睦月の下で友宏は苦い声を出した。そのまま電話を渡されて、睦月は受け取る。 『すまないね、心配かけさせて』 「いえ、大丈夫です」  睦月の下で友宏は大人しくなっていた。もういいかな、と上から降りてそのまま食堂の方に移動する。 「今日は友宏、うちに置いておきますね」 『あぁ。ありがとう。睦月君がいてくれて助かった』  電話口で、社長は察してはいたんだ、と言い訳のように呟く。 『あいつはいくらでも努力できるし、無理もきかせてきたやつだから、ついやらせてしまってね。なにか言ってたら、俺が大丈夫だって言ってたって伝えてくれないかな』 「はい。それで、あの、お願いがあるんですけど」 『ん?』 「友宏の舞台のチケット、まだ手に入りますか」 『それくらい、いくらでもなんとでもしよう』     
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