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寝ぼけながら頭を掻いて、やっちまった、という、後悔ですらない諦めが訪れた。朝のことを反芻して、ドライヤーを拾って足元から見上げてきた睦月の無表情に近い顔を思い出す。それから芋づる式に記憶は引きずり出されて、布団に押し込まれたあたりだとか、勝手に電話をかけられたことだとかが思い出された。電話口の社長の「休め」の一言。こうなる前に調整するのが自分の仕事だし、それくらいできると思っていた。
睦月がいない。
いま何時だろうと思ってスマホを探して、睦月がどこかに持って行ったんだった、と思い出した。正直、睦月にあんなに行動力があるなんて思っていなかった。ぼんやりしているとばかり思っていたが、よく考えたらいきなり引越してくるような奴だから、そう驚くことでもないのかもしれない。
ベッドを降りて、パンツ一枚だったのでその辺に落ちていた朝脱いだ気がするスウェットを着た。久々に感じる静かな午後の気配の中で睦月を探すと、食堂の机に参考書を広げて勉強していた。
「おはよう。大丈夫?」
参考書から顔を上げないまま言われて、うん、とだけ答えた。睦月は参考書を一度伏せ、机の上の友宏のスマホを取る。
「勝手に切っちゃった。はい」
「ん……サンキュ」
電源を入れると14:16だった。そんなに寝てたか。
立ち上がった睦月がお湯を沸かしはじめた。
「お茶? コーヒー?」
冷蔵庫から牛乳を出す。こいつはいつも牛乳ばっかり飲んでるな、と思いながら、その後ろ姿がなぜだか光司と重なって見えた。
寝ている間に感じた誰かの重みは、睦月だろうか。
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