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 光司は死ぬほど寝相が悪かった。二人並んでもまだ広いベッドで寝ていたというのに、気付けばいつも光司の腕や脚が体のどこかにのっていた。起きたら枕みたいに抱きしめられていることもあって、重くて苦しかったが、それ以上に愛しさが勝って押しのけられなかった。根が寂しがりやだったのか、友宏が先に寝ていると後ろから抱きついて来ることもたくさんあって、そのときの光司の暖かな胸の温度を、友宏はずっと忘れないと思う。光司の重さが好きだった。光司の体温が好きだった。遠慮なく預けられる重みと体温はいつだって幸福なものだった。光司は身長が高かったし力もそれなりにあったから、本気で抱き締められると友宏はまるで動けなかった。 「返事ないからカフェオレにした」  机にマグカップを置かれて我に帰った。睦月は立ったまま固まっている友宏を気にした風もなくまた座って、自分のカフェオレを飲む。睦月の髪に昼の日差しが透けて、いつもより茶色く見えた。真っ白な肌と表情が読み取れない目。睦月は髪の色も目の色もあかるい。男にしては甘やかな顔立ちのせいか、黙っていると少し背の高い女の子に見えた。光司もそうだった。あかるい猫っ毛はいつも寝癖がひどく、適当にしているように見えてきれいにセットされていた。あかるい瞳は猫科の猛獣みたいにいつも光っていた。光司と睦月は顔が似ている。いつでも表情がうるさかった光司と違い睦月は無表情なので気づかないが、黙っているときの顔はほとんど同じだった。睦月の方がいくらか幼い気がするくらいだ。  なぜこんなに光司のことを思い出すのだろう。  考えて、不意に気づいた。 「睦月、髪まっすぐじゃなかった?」  睦月の髪が耳の横でくしゃくしゃに揺れていた。猫っ毛に特有の癖の出方で、細くて色の薄い髪が光司の寝起きを思い出させた。色はともかく、睦月の髪はまっすぐだった気がする。 「え? ああ、ストパーとれたんじゃない?」     
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