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 しばらく美容室行ってないし、と睦月は続けて、座れば、と目で促す。 「おれ髪の毛茶色いじゃん。それで猫っ毛でくせ毛だからどれかなんとかしないと色々言われるよっておばさんに言われて、中学からずっとストレートパーマかけさせられてたの。でももう卒業したから、このままでいいかな」  睦月は全然自分の見た目に興味がないようで、耳の横の髪の毛をいじりながら呟いた。兄弟って髪質も似るのか、と思って、二月より少し伸びた睦月の髪型が光司に似てきていることに気づいた。光司は髪を伸ばしていた。サロンのカットモデルをしていたから髪型は季節ごとに変わったが、それでもうなじに沿うくらいの長さはいつもあった。その方が似合うことを知っていたのだと思う。たまに襟足を結んでいるとちょっと引くくらいの色気があった。  光司が死んで、もう二ヶ月以上経つ。 「そういえば、なんかケーキ届いてたよ。冷凍庫にいれてあるけど」  突然睦月が言った。 「ケーキ?」  そんなもの頼んだ覚えはない、と言おうとして、思い出してスマホの日付を見た。四月十七日。 「忘れてた……誕生日だ」 「女の人の名前で来てるけど」  睦月が冷凍庫からケーキの箱を出して来た。伝票にはよく知る名前がある。     
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