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 両親が亡くなったときのことは覚えていない。友宏は祖父母と七歳上の姉に育てられた。その祖父も中学の時に亡くなって、考えた姉は友宏に自分で稼いでいけるようになれとオーディションを受けさせた。なぜそれが芸能事務所だったのかは姉のみが知る。それでも十九歳になる現在まで仕事を貰えているのだから、姉の目は正しかったのだろう。 「じいちゃんとばあちゃんに育てられたんだけど、じいちゃん中学のときに突然死んで、高二の時にばあちゃんが転んで足折って歩けなくなって。で、ねえちゃんその時もう結婚しててさ。旦那さんが神戸に転勤になるっていうからばあちゃんそっちの施設に入ってもらって、俺もそっち行ってもよかったんだけど、自分で稼ぎたかったし、こっちで寮とか入れねえかなって思ってたらなんでか光司に拾われた」  じゃあうちに来る?  事務所で会った友宏に簡単に言ってのけた光司の記憶が蘇る。そのとき光司と友宏は出会って一ヶ月も経っていなかった。付き合ってすらいなくて、しかし、既に光司は決めていたのだと思う。翌日に家に連れ込まれて、瞬く間に友宏の童貞は奪われた。そのほか、心とか色々大事なものも。  友宏がおれのこと好きになってくれて嬉しい。  あの日、全部終わって疲れ切ってベッドでくっついたまま、光司は少しだけ恥ずかしそうに言った。     
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